うそつきな唇に、キス



仕上げにどすっ、と運転席の後ろを蹴ると、琴吹さんという人は小さく嘆息して、若サマの言う通り運転に集中しだした。



「……あの人の扱い、少し雑では?」

「これが普通だ」

「……?みんなあの人にはあなたのように振る舞うんですか?」

「??……いや、」



少し眉を寄せた黒髪の彼は、すっと無言でわたしを見下ろした。なにか不満でもあるかのような表情に見える。



「……お前、俗に言う世間知らずなのか?」

「きちんと知識はありますよ。ただ無菌室育ちなだけです」

「そこは普通に温室育ちと言え」



その時の若サマの表情は、ひどく面倒くさいと言いたげに眉間に皺を寄せていた。



「……まさか、わたしのことポンコツだと思ってます?」

「事実ポンコツだろう」

「うぐっ……」


確かに、世間の日常生活の点においては、わたしは他人より詳しくない。……でも。



「あなたがジャケットの中に着ているホルスターに入れているのは、S&WのM500ですか?」

「……は?」



それをあまりあるほど補える、知識があった。


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