うそつきな唇に、キス
慎重にコンコン、と固いコンクリートの階段を下っていった先。
予習してあった通り、無骨な鉄扉と、その横に非常ボタンのような赤い丸のボタンが取り付けられていた。
「……ふう」
一呼吸おいて、ゆっくり赤のボタンを押し込んだ時。
じりりりり、と。まるで非常ベルのような音が鳴り響き、それは中から反響してわたしがいる外にまで伝わってきていた。
そして、それに臆することなく声を上げる。
「あのー、すみません。東歌組の元から派遣されてきました、」
続いて言葉を発そうとした時。
バァン!!!!と、まるで叩きつけるようにして開かれたドアに驚いて肩を上下させた。
そんな風にしてドアを開けた主犯人物は、30代前半に見える男の人で、額に汗を浮かべながら、わたしを恐々と見上げている。
「お出迎えが遅くなり、も、申し訳、ありませんっ……。俺、あ、いえ、わたくし、は、」
「わたしに対して敬語は不要です。あなたは……祐庵会の長である相模様ですね?」
こくり、とゆっくり頷いた彼が、わたしを見定めるような視線を寄越す中、場違いなほどに満面の笑みを浮かべた。
「わたし、若サ……、若頭の命により参りました、えるという者です。本日はよろしくお願いします」