うそつきな唇に、キス
相模さんから色いい返事をもらったあと、最初に案内してしてもらった部屋に戻ろうとしていた時。
ころん。
「……あ、える様。ボタンが落ちましたよ」
「わ、すみません」
灰色の袖口のボタンがひとつ、落ちてしまったらしい。
渡貫さんにそっと小さなボタンを拾ってもらい、もうなくさないように握りしめる。
そうして、わたしの前を並んで歩いている相模さんと七宮さんに聞こえるように声を張り上げた。
「あの、戻る前にお手洗いを借りてもよろしいでしょうか」
「あ、はい。わかりました。……おい、渡貫。えるさんをご案内、」
「いえ。案内は大丈夫です。道も来る時に覚えましたから」
「そうですか?……では、応接室にてお待ちしております」
相模さんたちにぺこりと会釈して、来た道を戻る。
………さて。
そろそろ、おつかいを済ませないと。