うそつきな唇に、キス
ꄗ
トイレから出たところで、視界に何かの影がよぎった。
……と、思う暇もなく、どんっと鈍い音が背後から鳴り響く。
壁が打ち放しコンクリートなだけあって、それが余計に痛みを増幅させていたようだった。
「─────なあ、アンタ一体、何しに来たんだ?」
打ち付けられた背中。行動を制限するように喉元に押し当てられた片腕。
そして、……ぎらついた、敵を見るような、瞳。
「……相模さんから聞いていませんか?今日は定期報告と、組内で問題にあがっている情報漏洩元を突き止めるために伺ったのですが」
「はっ。あの人は、そーゆーことをオレに話したがらないんでな」
鼻で笑ってわたしを見下ろすのは、さっきまで一緒にいた─────若長の、七宮さんだ。
「あなたがこちらを敵視しているからでしょう。わざわざ時間がかかるはずだった外回りに行かせたのも、この場に同席させたくなかったからではないですか?」
「……新人がよく知ってるもんだな。まあ、オレもそう思って、さっさと切り上げてきたんだが」