うそつきな唇に、キス
「……あなたがどんな気を回そうと勝手ですが、わたしの邪魔をするのであれば容赦はしません。何もなければ、何事もなくわたしは帰りますので」
ゆっくりと、彼の背中で捻り上げていた右腕を離すと、七宮さんはすぐさま距離をとった。
しゅばっと。まるで猫みたいに。
「……では、せっかくですので一緒に戻りましょうか」
「……またオレに何かされるとは思っていないのか?」
「はい。あなたは、わたしに何もできませんから」
わたしにとっては至極当然のことで、目の前の七宮さんにとっては、ひどく心外なことだろうと思う。
けど、それがどうしようもない事実であり、覆せない真実でもある。
「……はっ。油断してると足元掬われるぞ」
「ご忠告痛み入ります。ですが、心配は無用です。わたしが足元を掬われるとしたら、それは─────、」
それは、きっと。
─────わたしをころす、あの人だけだろうから。