うそつきな唇に、キス
「まず、わたしがあなたを犯人だと特定した証拠ですが、」
部屋の空気などいざ知らず、懐から嵩張る物を取り出して、テーブルに置いた。
「………小説?」
「はい」
相模さんの不思議そうな声に、これまた笑顔で返す。
表情を読み取らせないようにするには、無表情を保つよりも、仮面をつけておいた方が都合がいいのだ。
「この〝暁にかゝる〟という本、実は、」
「……!まさか、出版されてないのか?!」
「いえ、実在はしています」
七宮さんの興奮したような声を、あっさりバッサリ一刀両断する。
わたしの容赦のない言葉に、七宮さんは不貞腐れたように口を尖らせた。
「じゃあ、この本のどこに証拠となるものが隠されてるんだよ……で、デスカ!!?」
最後の語尾は……ああ、相模さんに横目で睨まれたのかあ。あれは怖いから仕方ない。琴みたいだからよくわかる。
「これは、刊行も出版社も、また装丁も全て偽装されたものではありません。……まあ、それもガワだけなのですが」