うそつきな唇に、キス
ぺらり、と小説のタイトル、それに紫陽花の絵と作者のイル・ルチフェルと書かれた表紙を捲り、見出しを捲り。最初の一文。本文の書き出しが書かれているページを開いた。
「では、抜粋して本文の最初の一文だけ読むことにいたしましょう」
そこに書かれているものは、わたしが以前読んだ暁にかゝる、という本の出だしなどではなく。
「────東歌組組長、東歌椿は現在病床に臥せっており、外出も禁止されている。病名は不明。が、症状を見る限り、おそらく、」
それは、まさに唐突な出来事。
もし本当にここが小説の中だったのなら、叫び声で遮られるか、はたまた静かに独白を聞くかの二択だと思うのに、現実はやっぱり違うらしい。
一度、乾いた銃声が、鳴り響いた。
「……不意を突いて撃ってくるやり方には賛同しますが、ここでそれをしては悪手もいいところですよ」
……けれども、それは標的を射抜くことはなく。
気づけば、銃を手から捻り落とされた渡貫さんが、わたしにテーブルの上へと押さえつけられていた。