うそつきな唇に、キス



それが、上に立つ者の責務であり、示すべき態度だと、この人はわかっている。

……七宮さんが若サマに恨みを持つようになった、祐庵会の人員をごっそり本家へ引き抜いた事件の時も、そう。


この人はただ粛々と若サマの決定に頷いた。

……が。



「える様、此度の件はこの会の長である自分の不徳の致すところでございます。……それを承知で、ひとつお願い申し上げたい」



それだけで終わる人間が、こちら側で生き残れないのも、また事実。



「なんでしょう?」

「────この不手際、こちらで片をつけさせていただきたい」



突然で、けれど必然でもある提案に、渡貫さんの拘束を強めながら、目をすがめた。



「……その提案、到底受け入れられるものではないと、あなたもわかっているのでは?証拠隠滅や、はたまた長であるあなたが共謀しているという可能性も現状捨て切れません。これらの可能性を否定できるものが、あなたにあるとでも?」

「……いいえ、ございません」



始終頭を下げていた相模さんが、この時ようやく、顔を上げた。



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