うそつきな唇に、キス
「それは……若サマが、一度そうなさったから、ですかね」
「……え?」
「今日、聞いたんです。なぜ一度組長から解体の話が上がっていたのに、引き抜きという代替案を実行してまで、中途半端に残す決定にしたんですか、と」
ここの概要について、詳しい資料は琴からもらっていたから、車内でちょっと聞いてみたのだ。
そうしたら。
「〝祐庵会には、野晒しにすると噛みついてきそうな番犬がいたから、屋根がある場所で飼い主にリードをつけてもらっていた方が不穏分子にはならないだろうと踏んだ〟だそうです。まあつまり、期待してるんだと思いますよ、私的な見解ですけど」
そう正直に伝えると、七宮さんはぱちぱちと瞬きをしたのち、ふと、言った。
「……では、先程える様が提示された〝条件〟も、若サマのご意向に沿ったものなのですか?」
「………それは────、」
七宮さんの疑問についての返答を、今まさに口にしようとした、その時、だった。
ジリリリリリリ。