うそつきな唇に、キス
「あ、今すぐ相模を呼んできます!少々お待ちを!」
けたたましいチャイムの音と同時に、七宮さんはドタバタと行ってしまった。
……あ、これ、わたしが開けないといつまでも鳴り続ける感じだ。
「はい、今開けます。……随分と早かったですね、こ────、」
と、という言葉は、声にならなかった。
かわりに。
「……え、わか、さま?」
この場に来ないであろう人物が、右耳を触りながら立っていることに、それはもう驚いた。
「……あれ、用事は……」
「存外早く終わった」
「あ、そうなんですね……」
なんだろう。いつもの黒スーツ姿なのに、妙に貫禄が割増である気がする……。
「……!若頭様、お久しぶりでございます」
「相模か。そちらは、七宮だったな」
「……オレのような小童の名前を、覚えていてくださったとは」
「おれが顔を出し始めた頃、いちばん血気盛んな目つきをしていたのはお前だからな。よく覚えている。……腹心であるアイツはいないのか?」