うそつきな唇に、キス



それは、たぶん、何気ない問いかけだったのだろう。

けれど、この場を凍り付かせるには充分な言葉だった。



「……える」

「若サマ、今回のことについて詳しくわたしの方から説明をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「……いや、いい」



すでにこの場の空気から感じ取ったのだろう。

例の、情報漏洩元が、ここであると。



「……事前にその場の判断に任せると言っているからな。お前がそれを最良だと判断したのならば、構わない」

「そう、ですか」



どうやら、口利きするまでもなかったらしい。

そういえば、そんなこと言ってたなあ……。



「帰るぞ、える。……あと、相模」



わたしが横に並んだ時、若サマはちらりと膝をついている相模さんへと目を向けた。



「はい」

「明後日の夕刻に会全体の沙汰を伝える。それまでに、情報を吐けるだけ吐かせておけ。手段は問うな。甘さを見せた時点で、処理は別の者に任せる。それが目を瞑る条件だ」

「はっ。肝に銘じます」

「……そして、七宮」

「え、あ、は、はい!?」



まさか自分にまで声をかけられるとは思っていなかったのか、七宮さんは裏返った声を上げた。

そして、若サマはそれをさして気にした風もなく、振り返りざま言い捨てる。



「組内の会合に、そろそろ顔を出しておけ。いい加減お前の存在を周知させておいた方が都合がいいだろう」

「……!はい!」



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