うそつきな唇に、キス





「……若サマ、あれ、なんの冗談ですか?」

「……何がだ?」



いつものように琴が運転する車が発進したところで、さっきのことについて若サマに質問した。

当の若サマには、アレが伝わっていないらしかったけど。



「七宮さんのことを覚えていたっていう、アレです。わたしが資料を見せるまで、全然記憶にありませんって顔してたじゃないですか」

「……ああ言っておいた方が都合がいいように感じた」

「若サマって、案外卑怯なんですね。若サマからあんなこと言われたら、誰でも奮い立っちゃうと思うんですけど」

「……お前も、それほど扱いやすければ話が早かったのだがな」

「……?わたし、扱いにくいですか?」



わたしの問いかけに、若サマはただ無言を返した。

それが肯定なのか、それとも否定なのか。文脈から考えれば圧倒的前者だと、誰でもわかることだと思う。


……まあ、信用や信頼なんて、されてもすこし困ってしまうから、個人的には現状維持がいちばんうれしいけれど。


なんて思いながら、小さく鼻をすすって、匂い慣れたものの発生源である若サマへと目を向けた。



「……あの、若サマ、どこに行ってたのか聞いてもいいですか?」

「……匂うか?」

「あ、えと、鼻がちょっと敏感なので、それのせいかもしれないですけど、はい」



若サマと、ついでに琴から感じる血の臭いがすごい。



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