うそつきな唇に、キス
「あ、着きましたね」
琴にぎゃんすか怒られたり、若サマに事の詳細を伝えていたら、いつのまにか家の前へと着いていた。
……けれど。
「ふたりは降りないんですか?」
降りる素振りを見せないふたりに問いかけたら、若サマが軽く頷いた。
「ああ。一度本家に立ち寄って行く。お前は先に帰っていろ。風呂なら溜まっている」
「わかりました」
「……待て、える」
ドアを開けて、下車しようとした、まさにその瞬間。
ふと、頭に大きくて、あの日わたしが選び取り、握ったきれいな手が、まるで撫で方も知らないように、ぽんと乗った。
「言いそびれていたが、……える、今回の件、よくやった」
その言葉に、びっくりしながら振り返った先。
ほんの少し。申し分程度にあがった若サマの口角が、その体温と言葉が本物だということを証明していた。