うそつきな唇に、キス
「ところで、若サマがプライベートビーチ持ってるなんてびっくりしました。それにこんなに立派なコテージも」
「コテージではなく別荘だ。……まあ、そのどちらもおれ個人の私有物ではなく、どちらかというと母親のものだがな」
若サマの口から初めて出た、母親という単語。
それが何を意味するのか、邪推するだけ無駄骨になることは、若サマの人となりを知ってよく理解している。
「そうなんですね。……若サマは、海に入らないんですか?」
「琴吹が命大事にと騒がしいからな。……海の楽しみ方も忘れているため都合がいいが」
「……そうですか」
「海に入るのならばきちんと水着を着ろ」
「それぐらいわたしにもわかってま、」
と、言いかけた時。ふと気づいた。
ウッドデッキで荷物についた砂を払いながら、リビングにいるふたりを振り返る。
「あの、若サマ、琴。わたし、水着持ってません」
「……は?」
「え?!!」