うそつきな唇に、キス
「……え、ということは、わたしに渡るまで一度若サマの審査が入っていたと……?」
「妙な勘違いをするな。琴吹が時折購入したお前用の服をおれに見せて来ていただけだ」
「それも一瞬チラッと視線寄越すだけですぐ外されたしな!!!」
「………あの、なんというか、お疲れ様です」
ふたりに、いろんな意味のお疲れ様ですをこめた。割と切実な。
「……そういえば、わたしもふたりの私服を見るのは初めてですね」
「……そうだったか?」
「いや普段は黒スーツだし、学校では制服なんだから当たり前だろ。ちなみに黒スーツが私服はナシな。アレもいちお制服みたいなもんだし」
「……だそうだ」
そう言ってわたしを振り返った若サマは、すらりとした黒のスラックスと、同色のサマーニットの上に、少し濃いめのグレーのジレを着ている。
かわって琴は、ネイビーのタンクトップに黒い長袖のシャツを羽織っていて、ズボンは黒のカーゴパンツ。
…………なんだろう。この界隈にいると、無自覚に返り血に備えて暗色系選んじゃうのかな。わたしも上下黒だし。
「とりあえず、近くにショッピングモールあるから、そこで水着買ってこい。この別荘に繋がる一本道を抜けた少し先にあるから、えるにもわかるだろ」
「……あの、若サマ、琴」
「ん?まだなんか問題が、」
「………………わたし、無一文です」
「…………………は?」
「…………………え?」
この場に、嘘だろ、とでも言いたげな沈黙がおりた。