うそつきな唇に、キス



「そう、ですかね」



自分では似合っているのか、そもそもそんなことを気にしたこともなかったから、よくわからない。


琴がチョイスしてくれたのは、買いに行ったお店の中では比較的露出が少なめのものだった。

上はハイネック仕様で、首周りから胸元をきちんと覆い隠してくれている。下は安定に短パン、それも上下黒。必然的な偶然だけれど、若サマとお揃いみたいな色味の水着だ。



「……これが琴好みの水着ですか」

「だから好みじゃねえって!!!!」

「琴って地獄耳なんですか?」

「大抵あいつのことを悪く言えば本人に聞こえる。例えそれがどれだけ距離が離れていようとも、な」



若サマのそんなお言葉に、やっぱり地獄耳なんだ、と思いながら、琴の方を振り返った。



「ところで琴は何してるんですか?」

「あいつは見張りをすると言って聞かなかった」

「………あれ、見張りなんですかね?」

「そういう名目でもない限り、気が抜けないのだろう」

「はあ……」



……どちらにしろ、あれは完全に見張りとかではなく、ただ悠々とビーチベッドに寝そべって、休暇を満喫しているようにしか見えなかった。



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