うそつきな唇に、キス



「わたしは、あなたのそばに身を寄せる気はありますが、命を預ける気は毛頭ありません。わたしは、わたしが望んでいることのために、あなたを今現在守っているにすぎないので。それに、悪いことをしなければ守ってくれるという若サマのお言葉に背く利もありませんし」



命を賭けて守る気はない、と。

暗に言っているのだと思われようと、構わなかった。


もともとあまり大事にしていない命だし、誰かを守るという大義のうえで、少々生きながらえているにすぎないから。



「……という、あの、でも別に若サマのこと守らないってわけじゃないですよ。ほんと。絶対に守るっていうのもほんとですし。や、嘘つくって言った手前信じろというのに無理があるのはわかってますけど、」

「……っ、ふ、」



落ちる沈黙に耐えられなくて、慌てて身振り手振りで誤解ができないよう伝えていたら。

不意にふってきた、息。否、呆れたような笑顔の、吐息。



「……言い訳など無用だ。お前はそれでいい。……そのままで」



無表情以外は、それなりに見てきたつもりだった。

ただ、あんまり回数は多くないけど。でも、それでも。



「……また、おれに聞かせるものを考えておけ。今回のように、場所でもいい」

「え、」



こつ、とまるでドアをノックする時のように額に当てられた指の隙間から見えた若サマの表情は、今まで見た中でいちばん、やわらかいものだったような気がする。



「えるー!悪いが俺の荷物の中にある拘束具を取ってくれないか?!」

「あ、はい!じゃあ、今回若サマの射撃の腕を見られなかったので、次は見たいです!」

「それは却下する」

「ええええ……、」



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