うそつきな唇に、キス
若サマは車の中にいてください、と言ったあと、すぐバタバタ琴の方に向かったから、この時は気づかなかった。
「……では、える、なぜお前はあの時────、」
若サマが左耳に触れながら、ぽそりと何かを呟いていたことなんて。
「琴、持ってきました。というか、よくある結束バンドとか、ロープじゃないんですね」
「あれだとすぐ外れて拘束具の意味ねえじゃん」
「それもそうですね」
地面に倒れ伏して呻く、誰かも知らない男たちの手足を拘束するのを手伝いながら、何の気なしに聞いた。
「わたし、今までふたりと一緒にいたら、襲撃とかされないって思ってました。実際こんな風に仕掛けられたことありませんでしたし」
「ああ、まあ今回は別だな。白い車で来たから」
「……やっぱり、車の色が違うのは何か理由があるんですか?」
「そ。いつもの黒い車は、本家が了承済みの、もっと言うと組の人間としている時に使える物なんだよ。あれは若が個人的な用事の足として使用する時専用の車」
「……へえ」