うそつきな唇に、キス
その時、ふとひとつの疑問が頭をもたげた。
「足、ってことは、あの車の他にもまだあるんですか?」
「あるにはあるな。もうだいぶ使ってねえけど。バイクとか、あれより大きめのバンもあったはずだぞ。家のガレージにずっと閉まったままだから、埃被ってるんだけどな。緊急時にすぐ動かせるようにしてはいるが」
「そういえば、わたしガレージから出てきた車に乗っただけで、ガレージには入ったことなかったですね」
確か、ガレージは中からも入れる仕様になっているんだっけ。
たぶん、共有スペースである1階のどこかの扉から繋がっているんだと思う。行ったことがないから、わからないけれど。
「まあ、物置みたいになってるからな。それに、える鼻がきくだろ?死臭すごいぞ、あそこ」
「なんかキツい匂いするなって思ってましたけど、発生源車ですか……。というか、死臭もそうですけど、ふたりの傷跡の方がすごかったですよ?」
ひどい銃創だった。たぶん、あれは切創も。
若サマと琴、ふたりとも隠す気は最初からなかったみたいで、その証拠にふたりとも水着を着ていた。
傷が真面に見える服。数多の死線を乗り越えてきたであろう大小様々な傷跡を吟味するわたしを、若サマは特に咎めなかった。まるでそんなもの、ハナから存在していないように。
「傷跡なんて、然程気にしたことはないけどな。……あ、そうだ。俺もえるに聞きたいことあったんだよ」
「え?なんですか?」
「いや、咎めるつもりはないんだけどさ、────包丁くすねたのって、お前かなと思って」