うそつきな唇に、キス
その、琴のなんでもない、世間話をしているような声に、わたしの拘束する手は、……止まらなかった。
「……やっぱり、バレちゃいました?」
「バレるだろ、普通。若は気づかないとしても、キッチンに立つ俺が気づかないわけがない」
「使ってなさそうな物選んだつもりだったんですけど」
「まあ確かに普段から使ってないけどな。けど、若がいる時に刃物がなくなったらそりゃバレるわ」
琴の、ほんとに咎めるつもりが微塵もなさそうな声に、心の中でこっそり苦笑した。
「……すみません。別にくすねたつもりとかなくて、」
「や、だから怒るつもりねえってさっき言った、」
「ちょっとあの、素潜りしたくなって」
「…………………、ん????」
長い沈黙のあと、琴が首を傾げたまま固まったのを見て、あれ?とこっちも首を傾げてしまう。
「若サマとダイビングした時は初めてしたのでうまく出来なかったんですけど、ふたりが釣りしてる間にしたら結構獲れたので。クーラーボックスに入れたはずなんですけど、気付いてなかったですか?」
「は?!?!じゃああの意味不明な傷あった魚、お前が素潜りして獲ったのか?!」