うそつきな唇に、キス
笑みなど浮かんでいない。
ただその明るい場所に、喪に服してでもいるかのような、黒装束をまとった人間が、ふたりいるだけだ。
……絆されかかっている、人間が。
「しっかし、若くんもいけズやなあ。しれーっとえるちゃんの願いとは正反対のことするトか」
「……ただ琴吹が臍を曲げれば面倒なことになると思っただけだ」
「俺いちおお前より年上だぞ?!」
「プっ、はははは!悪気ない方が余計タチ悪いと思うけどなア。……それに、笑いなガら言われても、説得力なんか微塵もあらへんで?」
「……は?」
そうニヒルな笑みを浮かべながら指摘され、ふと、左耳に触れていた右手を、口元に持って行った。
……そして、初めて理解する。
己が、嘲笑や、恐怖をあたえるために使う笑みを、無自覚に、それもほんの少しだけ、緩めていたことに。
「若くんが笑っとるの、僕初めて見タわあ」
「俺若とそろそろ7年の付き合いになるのにまともに笑ったとこ見るの初めてなんですけど……」
「マ、えるちゃんが来るまで若くん、僕や側近くんとまともに会話してくれへんかったしなあ。……それよか、側近クん。ソの写真、僕にもくれへん?」
「え?あー……、個人情報にもあたるので、ちょっと……」
「ほんなら若くん、この画像のことえるちゃんに報告するけど、ええよなア?」