うそつきな唇に、キス
くっ、と。笑い声を噛み殺しながら底意地の悪い笑みを浮かべる男に、重たいため息をつくしか選択肢がなかった。
「……これで文句はないだろう?」
「うんうん、ありがトな、若くん」
ぴろん、と。またもや軽い電子音が鳴ったと同時、あまり見せびらかすものでもないと、全員画面を暗転、したその時。
「あれ。3人ともスマホ見てどうしたんですか?」
「?!」
静かな驚愕が、3人の胸の内を支配した。
見てくれはあれだが、全員それなりの経験を積んできたある種の猛者だ。その3人が、多少気を抜いていたとはいえ、ひとり見知った人間の足音やドアの開閉に気づかないほど、腑抜けていたつもりはなかった。
だからこそ、驚いたのだ。音ひとつなく、気配すら殺して背後に立っている、彼女の存在に。
「……える、随分早かったな。まだ昼休憩は残っているが」
「表情筋はばっちり治してきましたので。若サマこそ、何か急を要するご連絡でも?」
「いや。……お前の挙動について、少しな」
「やっぱり変でしたか……」
らしくないとは思ってました、と言ってむにむに自分の頬を触る彼女に、いまだ緊張が抜けていない。