うそつきな唇に、キス
そのような焦りに似た何かを感じとらせぬようにか、奇妙なイントネーションを使う男が口を開いた。
「ほんま、いつものえるちゃんにしタら可愛ええ行動やったわ。なんなら、もっ回見たい思ウくらいにはなあ?」
「なるべくやめてください。もしまた褒め殺しをしてくるようならわたしにも考えがあります」
「……へえ、そレは見ものやなあ、容姿端麗で、絶世の美少女のえるちゃん?」
揶揄うように薄ら笑いを浮かべたその男は、数秒後に彼女から予想だにしない反撃をくらうことになる。
「……はあ。何言ってるんですか。わたしなんかより、睿霸や琴、若サマの方が目立つ容姿をしているじゃないですか。わたしなんかを絶世と言うのなら、御三方のほうが絶世の美男子です」
「……へア?」
「……え、」
「………、」
ある人間はぽけっ、と呆気にとられた表情をし、背もたれについていた肘を滑らせ、ある人間は時差で頬を染め、またある人間は、足を組んだまま、ひたすら無表情に彼女を見上げた。
そして、このような事態を招いた張本人はというと、まるで意趣返しだとでも言いたげな顔で、微笑んでいた。
あの、冷たさをはらんだ、無垢な笑みで。