うそつきな唇に、キス
降って湧いた言葉に、ゆっくりと顔を上げた。
見上げた先。そこには、まるで喪服のような黒一色を纏った、おそろしく美しい男がふたり、立っていた。
ひとりは、全身に身につけている色と同色の瞳と髪を持つ、カラスのような男。
もうひとりは、その男にビニール傘を傾けている、少し赤みがかかった浅緋色の髪を持ち、薄いグレーの鷹の目をした男。
先ほどの言葉は、前者の人から発せられたもの。それを考慮すると、立場的には黒髪の男の方が上、ということになる。
「……若。この女は─────、」
赤髪の人が、黒髪の人に何か耳打ちをしていた。おおかた、関わらない方がいい人種だなんだと言っているのだろう。
耳打ちを受けて、黒髪の人がちらりとわたしを流し見る。
その瞳は、目の中に冬でも飼っているんじゃないかと思うほど、とても冷たかった。