うそつきな唇に、キス
若サマが靴を脱いで玄関に上がってから、一歩も動こうとしない。
それを不穏に感じたわたしや琴の問いかけに、若サマはただ、自分の、手を。
────痙攣している、手を、見下ろしていて。
「……く、そ、」
たぶん、それは、咄嗟だった。
「若サマ!」
「若!!!!」
ぐら、と。
いつも揺らぐことのなかった身体が傾くよりも先に、足が勝手に飛び出して、床と若サマの体の間に、滑り込んでいた。
「える!若の呼吸は?!」
「浅いです!」
「じゃあお前、初期の対処法はわかるか?!」
「心得てます!」
「ならこの場はお前に任せる!俺が医者を呼ぶまで繋げ!」
「はい!!」
迅速な対応、そして指示だった。
若サマの体をわたしと共にキャッチしたとともに、呼吸を確認、のち琴はどこかへと電話をかけ始める。
この時、自分の肌に触れる若サマの体温の冷たさだけが、ただ、わたしを突き動かしていた。