うそつきな唇に、キス
「……ここが、今日からお前が過ごす家だ」
ぴたりと止まった広い背中。
それに倣うようにその隣で足を止める琴と、一歩手前で見上げるわたし。
「基本的にルールはない。好きなように過ごせ。……ただし、勝手に出て行くことは禁止させてもらう」
「それ、わたしに行く宛がない嫌味ですか?」
「そうとも言う」
最後の言葉に引っかかって問い詰めると、率直すぎる一言が返ってきて、なんとなく若サマの人柄がわかった気がした。
玄関を開けた先。どこかのドラマのセットかと思うほど、外観と中身がマッチしていた。一体これほどのものを揃えるのにいくらかかったんだろう。
暖色の光を放つチューリップ型のシーリングライトに、シミひとつない真っ白な壁紙。猫足のシューズボックス。
パッと見、バロック様式の家具が多いように見える。
「琴吹、早く風呂を溜めてこい」
「スマホで遠隔操作しておいたから、もうそろそろ溜まるはずだぞ。……ん?える、どうした?」
「……え?」
ふと振り返った琴の顔を見た瞬間、世界がゆがんだ。