うそつきな唇に、キス
一瞬エラーが起きたかのように暗転した視界も、すぐに回復する。
「える、える?!」
体の右半身が、嫌に冷たかった。
たぶん、雨よりも冷え切っている。
世界はゆがんだまま。色は識別できるけれど、形までは捉えられない。
琴の焦ったような声が聞こえるものの、それに応えられる気力は残っていなかった。
……ああ、でも、もうなんでもいいや。
やっと。やっと、一息つける。ようやく、眠れる。
もし、ここで眠りに落ちて二度と目を覚まさないとしても、それでいいと思った。
あんな最低最悪な場所でないのなら、死に場所はどこでもよかったから。
……でも。
「……おい、死んだか?」
「かってにころさないでください……、というか、」
薄目で見える視界に、ぼんやりと夜を具現化でもしたかのような人が見えて。
「わたしをいかしたのだれだとおもってるんですか……」
目を閉じる寸前に聞こえた若サマのド失礼な一言には、反射で言い返していた。