うそつきな唇に、キス
綺麗に施されたそれになんだか新鮮な気持ちになりながら、足にぐっと力を入れて立とうと、したものの。
「あわっ、」
ぐらり、バランスを崩してしまう。
たたらを踏んで、床へ傾きそうになった時。
と、と肩に置かれた手に支えられて、なんとか転ぶことは避けられた。
「すみません。ありがとうございます、若サマ」
「……琴吹、風呂は溜まっているのか?」
「溜まってるけど」
「なら、お前はこいつの着替えを持ってこい」
そう言って、肩に置いていた手をそのまま背中へと回し、その次には両手でひょいと体を抱き抱えられていた。
そうして、すたすたと無言で歩き始める若サマのお顔をじいっと見つめて。
「……あの、わたし歩けますよ」
「つい先程よろけておいて何を言っているんだ」
わたしの言を一蹴するような一言に、それもそうか、と不覚にも納得してしまい。
「……ありがとうございます。それにしても、力ありますね?」
「お前が軽すぎるだけだ」
そのまま、身を任せることにした。