うそつきな唇に、キス
ぴたっとびっくりした猫のように固まってしまったわたしを、不思議な生き物でも見るかのように見下ろしてくる琴。
己の放った言葉がどういう風に受け取られるか、考えてもみない顔だ。
彼にどうオブラートに包んで切り出そうかと悩んでいたら。わたしの真隣から、嘲笑するような声が落とされた。
「随分とナチュラルなセクハラだな。琴吹?」
「は?……………、?!?!?!!」
若サマの皮肉たっぷりな指摘で、ようやく、心配は根幹にあるが文面上は非常に引かれやすい言葉を自分が言ったのだと理解したらしい。
「や、今のはセクハラとかではなく!!!えるの体力とか怪我の程度を考えての発言でだな!!!」
語尾がだんだんと強くなり、あわあわと支離滅裂になっていく言葉たち。
そんなに慌てて弁解しなくてもいいのに、と思いながらも、隣で愉快げに治安悪めマックスな笑みを浮かべている若サマがいたから、まあいっか、とそのまま傍聴し続けた。