うそつきな唇に、キス
────ぴちゃん、わしゃわしゃ。
「……あれ、たぶんタトゥーだよなあ」
包帯をすべて取り払い、服も脱ぎ去った姿でシャンプーをあわ立てながら、浴室の中でぽつりと独りごちる。
あの時、若サマにだき抱えられた時、初めて見えたものがあった。
左耳の裏。そこに、黒いハートの錠前のタトゥーが入れてあったのだ。
けれど、問題はそんなことではなく。
「……あのモチーフ、どこかで見たことある気がするんだよなあ」
シンボルではなく、錠前の中に敷き詰められていたモチーフが、どこか見覚えがあった気がした。棘のような、花のようなモチーフ。
昔、たぶん、どこかで見たことがあると思う。これでも記憶力はいい方なのだ。
そう思って、記憶を掘り返しかけた時。ぴたり、と泳がせていた視線を止めた。
「……考えるのは、蛇足、か」
余計なこと。変に詮索するのは愚かしい行い。
それに気づいて、思考をやめた。
一緒にわしゃわしゃしていた手を止めて、包帯が取れた見窄らしい自分の顔と青い痣がくっきりと残っている首を鏡越しに見つめた瞬間、だった。
「……ん?」