うそつきな唇に、キス
わたわたと戻ってきた琴は、わたしの顔を覗き込んで、変な顔をした。
「……常に変な顔をしている琴に、変な顔してるとは言われたくないです」
「心外にもほどがある言葉が聞こえた気がしたんだが、俺の聞き間違いか?」
変な顔、って。そんなに変な顔、わたし、してない。
ただ、ちょっと、驚いただけ。
レシピは知っていた。自分でも作れる。味も知っている。
けれど、それはいつもいつも〝美味しくない〟料理で。味がしないのも、当たり前、で。
だからこそ、きちんと味がわかる料理があったことに、驚いたのだ。
「……でも、美味しいですよ。顔に似合わずや……わらかい?味の料理作るんですね」
「………、なんか、素直に喜べねえんだけど……」
そう腑に落ちない顔をした琴に、かちりとドライヤーのスイッチを押したあと、無理やり前を向かされてしまった。
「まあいい。大人しく飯食え」
「……はい」
「ちなみになんだが、苦手な食いもんとかはあるか?アレルギーとか」
「いえ、ないです」
それから食事が終わるまでは、ふたり静かに美味しい料理を味わっていた。