うそつきな唇に、キス
「……なんだ、お前。いまにも死にそうな顔をしていたくせに、そんな余力はあるのだな」
くつくつと笑う目の前の人に困惑しているのか、赤髪の人は中途半端に出した足を進めるべきか考えあぐねている様子で。
「お前、帰る家はあるのか?」
「……あると思います?」
「いや?」
またもや愉快そうに即答され、自分で聞いたにも関わらず反射で頭突きしかけた。
「……だからなんだって言うんですか」
「お前、しばらくおれの家に仮住まいをするか?」
唐突な提案だった。そして、わたしにとっては願ってもないものであったのも、また確かで。
「わ、若?!さっきから一体何を、」
「いいだろう?なあ、琴吹」
ゆっくりと振り返りながら放ったその言葉には、妙な威圧感があった。
表情は、薄ら笑いをしているというのに。