うそつきな唇に、キス



とん、と指で叩かれた音とともに、よく通る低い声が届いた。

若サマだ。そして、ここと叩いた場所は、彼の左隣の窓際に座っている男子の机で。



「……いやあの、隣に人座ってますけど……」

「おい、退け」

「お前はまた横暴な……!」



どきりとするような鋭い視線を向けられて、若サマの隣に座っていた男子はわたわたと本来わたしが座るはずだったのであろう席へと移って行った。


嫌味なく足を組み、頬杖をつく、この教室内でおそらく1、2を争うほどの権力を持つのであろう王様のような男と、その隣で苦労性の運命を持った右腕がため息をついている。

その隣にわたしが座ることで、一気に敵意が向けられることに、ふたりは気づいているのかいないのか。


……ただ、ひとつ確かなことは。



「……座席って、自分の好きなように指定できるんですね。初めて知りました」

「いや違えからな?!」

「え、そうなんですか?若サマ」

「…………、お前は、非常識にもほどがあるな」




きっと近いうちに、────その席が、また空いてしまうということだけ。




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