うそつきな唇に、キス
そして、それが今、彼女たちがわたしに対してしようとしたことの正体でもあって。
ずいっと、わざとらしく一歩大きく前へと出れば、へな、と羽津さんは地面にへたり込んだ。
先ほどとは違い、わたしを畏怖の対象として見ている瞳をしていた。
……それだけは、今まで何度も見たことがある。
「……すみませんが、わたし、友達にするのならわたしより強い人がいいんです」
そう言いながら、くるり、と榊さんと深澤さんの方を振り向けば、深澤さんは羽津さんと同じように腰を抜かしていて、榊さんはその場に立ちすくんでいた。
「ど、して……っ、」
榊さんが、悔しげにぎりっと唇を噛み締めてわたしを睨み上げた、瞬間。
─────通り抜けた風が、髪と踊って攫っていく。
「……え?」
刹那、彼女の足が、おちた。
「な、んで、あなた、が、あの子にしか、許されていなかった、それを……」
それ、と榊さんが指し示した物がわからず首を傾げたままでいると、彼女は喉の奥から擦り切れた悲鳴をあげながら、深澤さんと羽津さんを置いて、なんとこの場からものすごい勢いで逃亡してしまった。