うそつきな唇に、キス
止めに入ろうとした赤髪の人は、黒髪の人の振り返った表情と声色に、言葉を喉の奥にしまいこむ。
それを見届けた黒髪の人は、やがてわたしへと視線を戻して。
「さあ、どうする?」
言葉は疑問系であるのに、その根底には拒否されるという結果がない。
事実、拒否したところでわたしが野垂れ死ぬのはこれまた時間の問題ではある。
……けれど。
「……なぜ、そのような提案を?」
それが引っかかる。わたしを匿って、彼にとってメリットがあるのかも疑問だった。
「お前がオメガという可能性もある、というのもひとつの理由だが、」
オメガ、という単語にぴくりと眉を上げたのと同じくして、その人は言った。
「お前がひどく愉快だったからな。それに、お前のような濡れ鼠がいれば、何をしでかすかわかったものではない」
「あの、わたしを犯罪者予備軍呼ばわりするのやめてもらっていいですか?」