うそつきな唇に、キス
いきなりの展開に呆然としていたふたりだけれど、深澤さんと羽津さんもやがてハッとしたように、榊さんの後を追って逃げ去って行ってしまい。
「……え、えええええ、」
あとには、訳もわからずぽつんと取り残されたわたしだけ。
「……まあ、いっか。はやく戻ろう」
頬をかいたのち、さっきまで見下ろしていた畏怖の表情を反芻しながら、踵を返す。
「わたし、見下されるのも嫌いだけど、見下すのは、─────もっと苦手だなあ」
優越感なんていう毒ではなく、それよりもっとひどい呪いが体内を駆け巡っているのを感じながら、ひっそり苦笑を落とした時。
「……そういえば、」
そこで、ふとあることに気づいて立ち止まった。
「あの人、わたしに一度も命令で強制したことがなかったような……」
思い出した直後、榊さんが言っていた、それのことに見当がつく。
いま、わたしはあの人からもらった変わりがあるものは何も身につけていない。
強いて言うならば、この制服だけど、そんなところに反応したとは思えない。
その他にわたしがもらったモノと言えば─────、
ひた、と右耳の裏に手を回した、瞬間だった。
たらり。そんな、嫌な感触が伝わってきたのは。