うそつきな唇に、キス
信用云々の話ではない、ということはわかっていた。
ただ、そう。ほんの、出来心で。
「あー、まあそれはそうだけど、」
「それはそうなんですか」
「それより、これ、どうした」
これ。琴が指し示すのは、鼻に押し当てられた手。
一瞬、誤魔化すか否かを考えて。
「……、実は、血が出ちゃって」
一部始終を見られている可能性もあったので、正直に話すことにした。
苦笑いしながら覆っていた手を離せば、ぽたり、と耐えきれなかった赤い雫がひとつ落ちる。
すると、その一連の流れに一瞬時を止めた琴だったけど、すぐさま息を吹き返したように窓から姿を消した。
「そういうことは早く言えバカ!!!」
そんな怒号を残して。
「……その鼻血、一体どうした」
かわって、至って冷静に事情を聞いてくるのは、その場に残った若サマ。
最早さすがとしか言いようがないほどの冷淡さ。