うそつきな唇に、キス
ティッシュを一気に引き抜いてわたしの鼻へと当てている琴は、あんま鼻いじんなよ、とジト目を向けてきた。たぶん何か勘違いされてる。
「……で、若の言う通りこてんぱんにしてきたのか?」
「もちろん。格の違いを教えてやりました」
「えるがどんどん行ってはならない方向へと進み始めている……」
がくりと肩を落とす琴を尻目に、頭上からいまだにわたしたちを見下ろしている若サマを見上げた。
「あの。それより気になることがあるんですけど」
「なんだ」
「これ、一体どんな意味があるんですか?」
ちょん、と右耳の裏を突くと、若サマはほんの少し眉尻を上げた。
「……なぜ気になる」
「榊さんが、これを見た瞬間息を呑んだので」
「………、ああ、あいつはアレを用意した人間の傘下の末端出身だったな」
アレやら末端やら伏字が多くて訳がわからないけど、追求しないに越したことはない。
そのスタンスは、この先決して崩すことはないと思う。