うそつきな唇に、キス



「……?なにをそれほど恐れている」

「や、だって、わたしまたアルファから喧嘩売られそうじゃないですか……」

「おれの婚約者はアルファではないが」

「え?」



視界の端で、清潔さを象徴していた白が、血に染まる瞬間を見た。




「おれの婚約者は、おれが直々に選んだオメガだ」



オメガ。運命の番、または魂の番とも呼ばれる性を持った人。

基本はベータと変わらない。けれど、オメガが持つ特殊なフェロモンに、他の性の人間は惹かれやすい。そのため、ベータと偽って過ごしているオメガが大半だという。

それに絶滅危惧種でもあるから、見つけるのには相当骨が折れたはず。



「どうやって、見つけたんですか」

「オメガの所在を知る者が、いまの婚約者をおれに献上してきたのが始まりだ」

「献上……」



まるで、物のような扱い。

けれど、それがオメガに生まれた者のどうしようもない定めでもある。



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