うそつきな唇に、キス
なんの皮肉も、嫌味もこの時だけはこめなかった。
ただ、もし別に言い換えるとするならば、変わった人だなとも思う。
「愉快なのはお前のほうだろう」
「……わたし、そんなに面白いですか?」
「ああ。わざわざ修羅場になるような場所に赴きたくないと思うのが普通だろうに。加えて、呼びつけてきた相手を逃亡までさせるなど、面白いと言わない方がおかしいだろう」
……そう、なのだろうか。
わたし、言われた通りにしただけ、なんだけどな。
「える、血は止まったか?」
「あ、はい。止まったみたいです」
もう、純白な部分はどこにも残っていなかった。
あるのは、血で穢れたものだけ。
「結構出たな……。とりあえず、捨てておくからそれ貸せ」
「え、でもきたな、」
「いいから。この後お前は普通に授業あんだぞ」
「……?ふたりはこの後予定があるんですか?」
まるで、自分たちはないかのような言い回しだけど……。
「ああ。急用が入った。今からちょっと若と出てくる」