うそつきな唇に、キス
「……おい」
そこで、ようやく若サマのお声が上がった。
隣に立っていたわたしの顔を覗き込むように屈んでいたその人の襟元を、強引に掴んで距離を取る。
「おれの説明も聞かず、こいつを質問攻めにするな」
「それもそウやな。ほんなら改めて若くんとコの子、よかっタら名前を教えてくれへんか?」
絶えない笑み。それは一見やさしく映るけれど、わたしには、ひどく不気味に思えてしまう。
こんな時、どう返すのが正解かわからなくてちらりと若サマを見上げたら、こくりと一度小さく頷いた。……ということは、話してもいい、ってことかな。
「える、です」
「えるチゃんか、よろしゅうな。……にしテも、ほんま綺麗な子やなあ。毛先だけ白く染マった黒髪に、吸い込まれそうな鮮血に似た瞳。若くん、こなイな子がタイプやったんか」
「違う」