うそつきな唇に、キス
その時、初めてその人は快活に笑った。
ひどく楽しげに。愉快げに。何か期待しているように。
「若くんがそばに置く子っちゅうことは、それなリに優秀な人材なんやなあ。……ホな、」
なんとなくマズいことが起こりそうで、若サマの背後に隠れようとした、瞬間だった。
髪の毛を払っていた手を、そのまま頸に回されて、ぐいっと彼の方に引かれてしまい。
それに釣られて、ハッと顔を上げたのが、いけなかった。
「────きミ、僕のものにならへん?」
琥珀色の、瞳。蠱惑的な、言葉。
先ほどかけられた榊さんのものよりも、強い命令。
ふつ、と胸中から湧いてくるものと背後から若サマの手が迫っているのを感じながら、そっと回されている彼の手に触れた。
「……すごく、光栄なお誘い、ですが、」
拘束とも呼べる手を自分から振り解き、一歩二歩と後ずさる。
「丁重に、ご遠慮させていただきます」