うそつきな唇に、キス
同時に、首回りに回された腕。
それはまるで、囲うような、または命の主導権を握っているように思えるもので。
「……そこマで若くんの逆鱗に触れるものやったとは思わへんで。ほんますんまへんッて」
その人はにこり、とまた仮面のようにころころと表情を変えて、すっと左手を差し出した。
「えるちゃんも、ちょいちょっかイかけすぎたわ。若くんがそれを彫らせた人間っちゅーノがどんなもんか、気になってしもうてな。やけド、僕もこれからは最大の敬意を持って、えるちゃんと付き合わさせてもらうつもりやけ、よろしゅうな」
こういう時、本当に人付き合いをして来なかった自分が不甲斐ない。
おどおどとまた若サマを見上げたら、同じくわたしを見下ろしていた若サマに、くいっと顎で握手を促された。
大丈夫、らしい。……さっきので、信用はゼロからマイナスへと落ちてしまったけれど。
「……はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
おそるおそる手を握ると、冷たい指輪の感触が伝わって、背筋にひやりとした冷気が通り抜けた。