うそつきな唇に、キス



「……わかりました」



ガリガリにやせ細った体は、いつしかわたしに限界だと訴えていた。


これ以上、雨に打たれてはダメだ、と。



「……ただ、ひとつわたしの望みを言ってもいいですか?」

「聞ける範囲なら聞いてやる」



胸ぐらから掬い取られた手は、どちらもひどく冷たいまま。

あたためる手は、存在しない。



「……どうか、最後までわたしを騙し通してくださいね」



この人の隣が安全などではないということはわかっている。

けれど、それでも、いまのわたしには何もかもが足りなかった。そして、その足りないものを、このひとはすべて持っている、選んだ理由なんて、それだけだ。


きれいな手を、握り返した理由なんて。



「お前の方こそ、あのような大口を叩いたのなら、嘘つきらしく嘘を突き通せ」

「もちろん。そのつもりです」



それが、契約成立の合図。



「では────お前が悪さをしない限り、おれがすべてのアルファから、お前を守ってやる」


「……あの。後出しでそれ言われても、信憑性薄いです」




─────そんなジメジメした、とある雨の日。

わたしと彼の、すべてが嘘による関係が、始まりを告げた。



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