うそつきな唇に、キス



便器に溜まっていた水が、一気に血の色へと染まっていく。


外に喵さんがいたから、できるだけ声はおさえたけれど、わたし以外誰もいないからとついつい無用な独り言が漏れてしまう。




「っが、ごほっ、……はあ、は、……もたない、よなあ」



嘘が、虚偽が、誤魔化しが、あとどれほど持つか。


口端から垂れる血を拭った時、ふと鼻からも血が出ていることに気づいた。

あーあ。せっかく止血したのに。



「……あのレベルの人ともなると、命令ひとつで危ない、かあ」



若サマから命令された場合、これよりもっと危ない状態になるかもしれない。

あの人は、一段とアルファが強いから。


ほぼほぼオメガと言っても過言ではないくらいのフェロモンに加えて、無意識に体から漏れ出ている強制力を帯びた威厳。


実際のところ、あの人の近くにいるだけで気が狂いそうだ。




「……琴、何年あの人の隣にいるんだろ」



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