うそつきな唇に、キス
ライアー / Name
ꄗ
「……へくちっ」
「……琴吹、拭くものはないのか?」
その後。手を取られて連れて行かれた先は、路肩に停まっていた漆黒のミニバンの中。こんなわたしでも、一目見ただけで高級な代物とわかるものだった。
その車の後部座席に乗せられて、隣にはあの黒髪の人が座っている。
「確か、後ろにタオルが何枚か積まれているはずです」
ぶるり、と身を震わせていたら、隣の若サマとやらが後ろをごそごそ漁っていたかと思うと、ぱさりと頭の上から布をかぶせてきた。
これまた漆黒の、大きなバスタオル。
「これで体を拭いておけ」
「………くちっ、」
そう言って、わしゃわしゃと無表情で乱雑に髪の毛を拭いてくれる意味がわからない。自分でしろ、っていう意味かと思ったのに。
「……琴吹。帰ったらすぐコイツを風呂に入れろ。汚い」
「了解です」
「あの本人目の前にして汚い言うのやめてくれます?」
事実、そうではあるけども……。
あと、加減がなっていないのか、すこしだけ痛い。