うそつきな唇に、キス
はぐらかした、わけではないんだけどな。
そう思いつつも、若干そうなるように言った自覚はあったから、わざわざ掘り下げるような真似はしない。
「っちゅーかサ、」
「……?はい」
「僕のこと知ってたっちゅーことは、若くんの素性も、えるちゃんはもう知ってるンちゃう?」
そう言われて、ぴたり、と彷徨わせていた視線が止まった。
窓の外に向けていた視線を、座席の上で胡座をかいている喵さんに向けて。
「……それが、知らないんですよね」
「え、知らんト?」
「はい。若サマのことや家のことは、何も」
それはずっと、わたしも不思議に思っていた。
今日絡んできた榊さんや羽津さん、それに深澤さんの家のことは知っていた。まあ前日に、琴にあの学校の生徒ほぼ全員の詳しい資料を渡されたから、という理由もあるけれども。実はもっと前に知っていたのだ。喵さんのことを教えてくれた、別の情報源から。
なのに、いちばん有名どころである若サマの家はほんの少しも教えてくれなかったのだ。
「……さすがに、ね」
「えるちゃんの情報網でも、若くんの詳細マでは引っ掛からなかったんやねえ」