うそつきな唇に、キス




若サマがわたしに頼み事なんて、珍しい。

それくらい、人手が足りないんだろうな。



「人手って、何人いるんですか?」

「ひとりだ」

「……………、……ん?」



信じられない、気のせいでなければならない言葉が、たぶん、聞こえた気がする。



「え、ひ、ひとりって言いました?」

「ああ」

「……まさか、琴ひとりだったり?」

「そうだが」



あ、そうなんだ……。

平然と落とされた言葉に、びっくりしすぎてほんのちょっと若サマと琴に慄いた。



「でも、今日わたしの迎え用に人員を割いてくれたんじゃ……」

「あれは本家の人間に押し付けただけだ。……おれが強制させたと言い換えてもいいが」

「ふ、不憫……」



迎えに来てくれた人が不憫でならない。

すみません、見つけてあげられなくて……。



「ええっと……ご事情はよくわかりませんが、理解しました。学校終わりでいいんですよね?」

「そうだ。琴吹を同伴させるかは、明日の能力テストの結果にて判断する」



< 88 / 235 >

この作品をシェア

pagetop