うそつきな唇に、キス




「…………東歌(とうか)組の者だと言え。そう言えば全て伝わるだろう」

「わかりました」



東歌組。それが何を指し示し、何を証明しているのか。そんなものは知らなくていい。

だから、深追いも、しない。


隣から、どことなくいつもより不穏な空気が漂っていると。窓から流れていた黒がかった景色が、止まった。



「じゃあえる、頑張れよ」

「あ、はい。では、用件が済み次第連絡しますね、若サマ」

「ああ。……おい、」

「?なんでしょうか」



出ようとドアハンドルに手をかけた時。

ふと若サマの声が落ちてきて、どうしたのだろうと後ろを振り返ると。



「……危険だと判断したら、すぐにその場から離脱して、琴吹に連絡を入れろ。かならず、無事で帰ってこい」



右耳を触りながら落とされたその言葉と無機質な瞳は、決して命令が組み込まれたものではなかった。



「……はい、わかりました」



< 98 / 235 >

この作品をシェア

pagetop