うそつきな唇に、キス
心配、ではないのだろうな、ということが直感でわかった。
もしかしたら、ある種の心配はあったのかもしれないけど、それは決して友人や家族、恋人に対するものとは違うもの。
「……では」
「ああ。……行ってこい」
ばたん、と閉めたドアから付け足すように落とされた言葉に反応する暇もなく、車はあっという間に遠ざかっていく。
「…………いってきます」
初めて口に出したその言葉は、届くべき人には届かず、置き去りにされたように空気に残る。
自分がなぜそのような言葉を発したのかも、若サマがなぜあんなことを言ったのかも突き詰めることはなく、くるりと道路へ背を向けた。
「………じゃあ、わたしの〝目的〟のためにも、今回の任務を完遂させますか」
眼前に広がる地下へと下る階段。その先は真っ暗闇に包まれていてドアは見えない。
てっきり若サマのご実家みたいなところだと想像していたけど、そうではないらしい。